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■2002年9月4日
そのエキセントリックで... Vol.3
--謎の人物。M氏が作家としてここでデビューする。
今回は、M氏執筆の実話に基づくエッセイをお送りいたします。いよいよ完結!
前回からの続き...)

お客さん趣味は?」

「…音楽。」

「音楽って、聞くこと?」

「いや、作るんだ。自分で。」

「素晴らしい才能を持ってるじゃない。」

意外な答えが返って来た事に少々驚いた。
僕も聞き返して見る。すると、

「笑わないでくれる?笑わない本当に?」

僕はまた例によって、

「このオヤジ、ブリッ子?持ったえぶり?しかもその顔で…」なんて、思っていた。

「趣味は沢山あるんだ。盆栽、釣り、大工。」

「盆栽は昔から好きでね。小さい頃から興味があったんだよ。」

小さい頃から盆栽?もしかして暗い少年だったんだろう?とよぎる。

「死んだオヤジの影響でね。小さい頃からよく手伝わさせられていたから。」

「えっ!」

僕はオヤジの影響という話しになぜか弱い。
どうやら男の家の周りは植物園ならぬジャングルと化しているらしい。

「あと、自慢にもなるんだけど、今住んでいる相模原の家、自分で建てたんだ。」

さすがに、これはビックリした。

お前の家はロッジか?」

なんて思うくらいに。

「そのうち、渡辺 篤が取材に来るんじゃない?」

とは聞けなかった…

「土地は、譲ってもらったんだ。だからあとは、材木と、どんな家にしようかってことだけで。」

しまいに僕は、ムツゴローと話をしているような錯覚を起こすくらい、 えっ?という気持ちになっていった。

「大工が趣味だからって家まで建てるか?普通。」

「お客さんも好きなことした方がいいよ。抑えたって仕方ないよ。」

妙に男は説得力を持っている。

「釣りも大好きだから、この車のトランクに釣り竿を積んであるんだ。」

「どうりで、思ったより僕の荷物が入らなかったんだ…」

そんな独り言。
仕事を終えて相模原の自宅に戻ると睡眠の時間を惜しんでまで、まずは盆栽らしい。

「お客さん、自分がやりたいと思ったときから、もう、始まっているんだよ。」

今時、こんな人がいることに喜びと戸惑いを感じていた。
なぜならば、ずっと色々考えていたし、悩んでいたのも事実だから。そのことを何にも話していない この男に不意打ちをくらったような感じだった。

「そういえば、何を考えているんだろう?何を迷っているんだろう?」

そんな気持ちになっていた。
僕は、あるこんな話を思い出していた。

「趣味と仕事は別に考えた方がいいと思う。なぜなら仕事を一生懸命する人の唯一の楽しみが趣味の時間だからです。それと趣味を実益にする為には、もっと自分を確立してからじゃないと失敗するでしょう。」

ある商社マンの話。
その話しとは裏腹に男は少年のような顔つきで話し続けていた。
そうこうしているうちに目的地が近づいていた。

「この辺でいいのかな?」

確かにその、この辺に来ていた。しかし、僕は

「いいよ、遠回りで。まっすぐね…。」

「えっ?いいんですか?」

ほんの少し、遠回り。

「もう着いちゃったんだ…」

「何か、お客さんの気持ちわかりますよ。こんなにいい天気だし。」

どうしてこの男はこんなにゆとりを持って生きているんだろう。ただ、ただそんな気持ちだった。
目的地に到着した。

「トランク開けて!」

男はすっかり荷物をトランクに詰め込んだことを忘れていた。すると男は、

「一人じゃ運べないでしょう?手伝うよ。」

「いいです。悪いですから…」

男はすでに荷物を下ろし始めていた。
確かに荷物を下ろして、いくつか運んでいるうちに、残りの荷物が盗まれてしまう可能性もあると思い内心、助かった気持ちでいた。
しかし、僕は、この時間も料金にカウントされているんだろう?どうせと思い、 何気なく助手席の方から料金メーターをのぞいて見た。

すると、どうやら僕が遠回りをしてくれと男に頼んだ時には、 もう料金は止めていたのだ。
なぜなら、「この辺でいいのかな?」と聞かれた時にのぞいた見た 料金メーターの料金と一緒だった。

料金を払う。領収書を貰う。

そして、男と荷物を手分けして、エレベーターホールまで運んでもらった。
男は僕にこう呟いた。

「兄ちゃん頑張るんだよ!!おじさん応援しているから。しっかりな。ファイト!」

その言葉と料金メーターをのぞいて人を疑った自分にハラがたち泣けて来てしまった。
しかも、お客に向かって、

「兄ちゃん!」

「どうやって応援しているんだよ、このオヤジ!」

本当に情けない気持ちと、こんな男に会えた嬉しさが交差し複雑な気持ちだった
そして、男にはきっと必要のないだろう、僕の荷物とは、ハイテク駆使する為のコンピュータ機器。
きっと男は、

「自分の感情までコンピューターで管理しないでね。」

走るコースや、他のドライバーよりも早く走り出し、効率や能率をあげていると言っていた男だけに、きっと、そう呟くだろう。
しかし、いや、これはまぎれもなく、何年か前まで、僕がデジタル化文明やハイテクを駆使している連中に言っていた言葉だった。そんな僕の現在は、

「効率アップのツール」

そんな精一杯の自身に対する言い訳しか持ち合わせていない。
詰め込んだ荷物を忘れていた。少年のような笑顔で趣味の話しをしていた。
仕事に誇りを持っていた。
家族を愛していた。応援してるよと言ってくれた。
もう、あの男とは会えない。ちょっと変わった風貌の男。
今もこうしてあの時を思い出す。
ロバート・デニーロと呼ぶには、推定500万キロほど遠いであろう男を。

自分の視線で、自分のランクで生きて行く。
きっと、男は、人々が哀しみやネガティブな事を胸に詰め込んで生きていることを知る由もなく、ただ僕の荷物をトランクに詰め込んだのを忘れていたように、どんな哀しみや苦しみも胸に詰め込むことを忘れて生きているんだろうと思った。

「僕も忘れられるものなら、詰め込むことを忘れたい!」

知らないうちに知りすぎていた自分がいる。
男は、本当の意味でポジティブに生きて行くということを教えてくれたのかも知れない。

「自分の人生は自分で決めなきゃ!」

と他人と線を引いていると言っていた男。
そして、また二時間以上をかけ今日も電車で通勤しているだろう。
そして、どこかでまた乗客に、ドライバー自身によるドライバープレゼンツ路地裏裏街道トークを炸裂しているだろう。

僕が、男の為に贈った言葉は、ただ一つ

「ヘルニアには気を付けて!」

その駅から、その路線で、そのランクで、そのエキセントリックな風貌で…
彼のエキセントリックで。

本当にありがとう。いつかまた逢えるかな…

そして僕は、自分の信じる道を、自分のペースで走り続けて行く。