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■2002年10月09日
星になった嘘
--M氏のお送りするエッセイ第一弾!
秋の夜長に、ちょっと切なくロマンチックな話をお楽しみ下さい。
そこは都心部から少し離れた街。比較的新しい街ではあるが、企業や繁華街のあるベットタウン。

そこに住む晃というある若者の話。その街よりもちっぽけな存在で悍馬の様な男。

もう随分と前の話になるが、その晃という男と飲んでいる際にこんな話を聞いた。

今でも忘れられない話である。
ある時、ふっとその会話を思い出す。

「俺、前にさぁ、顔も知らない子と付き合った事があるんだ。」

そんな話はありえるのか?ありえるのなら軽いノリの話だろう…

「何でか分かる?電話だよ。本当に一回も会った事はないんだけど、何度か電話で話しているうちに、他人には思えなくなってしまってさ。勿論、向こうはね、冗談半分だったと思うんだけどね…」

僕は興味のない話だと半分違う事を考えながら聞いていたが、 次第にその気持ちは消えていった。
ただ、得意げに話ている晃の前では、なぜかそれを隠しながら聞いていた。

「きっかけは間違い電話からなんだよね。笑っちゃうけど。
俺が間違い電話を掛けてしまってね。その電話に出た人に俺と同じ名字の人がいたらしくてさ。」

「もしもし?吉川ですけど…
そしたら突然さ、あっ!吉川君?元気だった?どうしたのこんな時 間に…」

普通分かるだろう?声で…っと当然思った。
そうは思いながらも、ますます興味が沸いていた。
しかも、その場面の想像までしていた。

「俺はさ、当然、知人のところに用事があって電話したのに女性の声で、例の調子でしょ?そりゃあ、びっくりしてさ。でも、とっさに思ったんだ。
ちょっと待てよ?って。下心って奴?が沸いて来てさ。だって向こうはさ俺の事を同じ名字の人と話してると思い込んでいる訳でしょ?
そのまま俺がその思い込んでいる人を演じていればどうなるんだろうって…」

相変わらずの晃。良く言えば、いつもトキメキに飢えている。
どこか喉が渇いている。

さらに女好きな晃にとっては儲けものと思うのが当然と言うくらいの話。
そして、煙草に火をつけて、「ジャックダニエルをもう一杯」とバーテンに。

「そんでさ、考えてみれば、別の吉川を全く知らない訳でしょ?
向こうが話してくる度に動揺しちゃってさ。話を合わせるのが大変だったんだよね。」

「吉川君、まだテニスやってるの?」

「えっ!?あぁ…うん。まだやってるよ。辞める訳ないじゃん!」

「なんて感じでさ。内心はさぁ、俺がテニス?ふざけんなよっ!
見たいなさ…
そんな感じだったから、俺のタイプではないな、これはってその時は電話を切ったんだ。」

えっ!?切っちゃったの?という僕の結末を待ちきれない気持ちはまだ隠している。
晃曰く、数日後に何回か電話して、別の吉川を演じたまま話し続けたらしい。

そして、電話の向こうの彼女と直接会う話まで持ち上がった。
晃としては当然、会える訳がない。別人だと言う事がばれてしまう…
晃は非情にも適当な言い訳やすっぽかしをしたりでごまかしていたと言う。

晃自身もそこまで話が進んでしまうとは思っていなかったらしく、 ましてや、今さら別の男だとは当然言えるような状況ではなくなっていた。

では、電話の向こうの彼女は全く気づいていないのか…
その彼女は本当の吉川という男に恋をしていたらしい。
そんな調子でまた晃は彼女に電話を入れる。

「もしもし?吉川だけど…」

「あっ!今晩は吉川君。」

「昨日は行けなくてごめんな。急用が出来ちゃってさ。」

「ん〜待ってたんだよ!でもいいよ。
またこうやって電話くれたから…
正直ね、もう電話くれないかなぁなんて心配しちゃった!」

「えっ?何で?」

「うん〜何となく。女の感かな(笑)」

「そんな事ないって。」

「今度は会ってくれる?晃君…」

「勿論、久しぶりだもんな…。」

「…。」

「そうじゃないよ…。本当の吉川さんに会って見たいなっ!」

「えっ!?」

彼女は気づいていた。彼女が好きだった吉川ではなく別のニセモノの吉川という男だった事を。

(次回へ続く...) (M)